LOGIN土曜日の朝。
颯馬がまだ寝ていると、ベッドの外から騒がしい声が聞こえてきた。
「海行こうぜ海ーっ!!」
彼方の声だ。おかげで目が覚めてしまった。
「朝から元気だなぁ……」
日和が眠そうに呟く。
颯馬がカーテンを開けると、部屋の中はすでに休日モードになっていた。そらはオレンジ色の髪を揺らしながら水着姿ではしゃいでいるし、彼方はシュノーケルを振り回している。
「颯馬くん! 早く準備して!」
「お前ら早すぎだろ……」
まだ頭がぼんやりしている。
その時。
「おはようさん」
水琴がベッドのカーテンを開けた。
オーバーサイズのタンクトップは襟が大きく開いていて、鎖骨や胸元があらわになっている。
しかも短めのショートパンツからは、白い太ももが覗く。
寝起きで乱れたままの金髪の毛先が、頬にかかっていて、妙に色っぽい。
颯馬は思わず視線を止めた。
(……なんだよその格好)
水琴が首を傾げる。
「どしたん?」
「いや……別に」
慌てて目を逸らす。
水琴は小さく笑った。
「颯馬くん、寝起き弱いよなぁ」
「そういうおまえも寝癖すげーぞ」
「え、嘘!」
「ほんと。この辺」
颯馬のは水琴の隣に腰掛け、跳ねた髪に指を伸ばす。
そのやり取りを見ていた彼方がニヤニヤし始める。
「朝からイチャつくな〜!」
「イチャついてねーし!」
颯馬が枕を投げると、彼方が爆笑しながら避けた。
「ちょっと颯馬くん! それ俺の枕!」
水琴が叫ぶ。だが顔は笑っている。
営業スマイルではない、ふいにこぼれ出た素の表情。そんな感じがした。
(あ、いいな。その顔)
颯馬は少しだけ胸の疼きを感じる。
嬉しいような、せつないような。胸の奥のほうがキュッと締め付けられるような、不思議な感覚。
この感じには、覚えがある。
だが、颯馬は目を逸らし、自分の感情に気づかないふりをした。
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庭へ出ると、南国の空気が一気に肌へまとわりつく。
芝生の向こうには透明な海。白い砂浜。強い日差しで水面がきらきら光っている。
今日は屋外撮影らしく、スタッフたちがビデオカメラを構えていた。
「今日は海とプールを自由に使ってくださーい!」
スタッフの声に、彼方が「うおおおーっ!」と叫ぶ。
ビーチには様々マリングッズが揃っている。シュノーケルに浮き輪、ビーチボールに水鉄砲。
完全にリゾート状態だ。
最初この合宿の話を聞いた時、颯馬は正直、軟禁みたいだと思っていた。
スマホ没収に監視カメラ、外出制限。
……けど。
仲間と笑って、海ではしゃいで、毎日歌って踊って。
(……意外と楽しいな)
修学旅行みたいだ、と思った。
透明な海の中では、青や黄色の小魚が群れになって泳いでいる。
岩陰にはヤドカリがいて、時折小さなカニが横歩きで砂浜を駆け抜けていった。
「よっしゃあああ!」
彼方はシュノーケルを片手に持ったまま一直線に海へ走り込み、水しぶきを上げる。
「待ってよ! 泳ぐなら準備運動してからじゃないと!」
響が慌てたように叫ぶ。
「魚いる! めっちゃいる!!」
「子供かお前は」
龍也が呆れながら笑う。
しかし数分後には龍也自身もシュノーケルを装着して海へ入っていた。
「うおっ!? マジで魚だらけじゃねぇか!」
「だから言ったじゃん!」
彼方が勝ち誇ったように叫ぶ。
その近くでは凱とミンソクがビーチバレーを始めていた。
身長差のある二人が本気で打ち合うたび、ボールが青空へ高く舞い上がる。
「ナイス!」
「もう一回!」
体育会系らしい元気な声が響く。
龍也と凱は沖の方まで競争し始め、ミンソクが「危ないからあんまり遠く行くなー!」と叫んでいる。
葉月は防水スマホ片手に自撮り。
日和は浮き輪に乗って漂流していた。
「流されてるぞ日和ー!」
「だいじょぶ〜……」
美容オタクのまひろだけは完全防備だった。
長袖ラッシュガードに帽子、サングラス。日焼け止めを何度も塗り直している。
「紫外線って老化の原因なんだよ!?」
「沖縄来てその格好!?」
瞬多が笑う。
まひろは真顔だった。
「十年後に差が出るから」
そらが「すごーい」と感心している横で、颯馬は思わず笑ってしまう。
その時。
水琴が波打ち際からこちらへ歩いてきた。
膝丈のサーフパンツとパーカータイプのラッシュガードは、白地に紫がかったブルーのハイビスカス柄のセットアップ。
白い肌に、白い素足、濡れた髪。首筋に伝う水滴。
スタッフのカメラがすぐに二人へ向く。
水琴はそれを分かった上で、自然に颯馬の腕へ触れた。
「颯馬くん、泳がへんの?」
「泳ぐけど」
「一緒に行こ?」
柔らかい声。
距離が近い。
営業なんだって、分かってる。
なのに、胸が妙に落ち着かない。
スタッフが笑いながら言った。
「コメントめちゃくちゃ伸びてますよー。“
水琴がくすっと笑う。
「やったな、颯馬くん」
そう言って肩へ頭を乗せてきた。
―――甘い匂い。
分かってるのに、どうしても意識してしまう。
そこへ。
「颯馬くん!」
そらがビーチボール片手に駆け寄ってきた。
「一緒にビーチバレーしよ!」
「ええ〜、今颯馬くんは俺とデート中なんやけど」
水琴がわざとらしく言う。
「えっ」
そらが固まる。
「いいじゃん、ビーチバレー。皆でやろうよ」
颯馬はそう言ってそらに笑顔を向けた。
それから水琴にも視線を向ける。
「水琴も一緒にやればいいだろ。変な冗談言ってないで」
「まあ、颯馬くんがやるならやってもいいけど」
「そらも、いちいち間に受けてしょんぼりしてんじゃねーよ」
言いながら、そらのオレンジ色の髪をくしゃくしゃと撫でる。
「べ、別にしょんぼりしてなんかないよ」
「ならいいけど。じゃ、行こうぜ」
颯馬の手がそらの背中を軽く押す。
水琴は少し不満そうな顔だが、すぐにいつもの営業スマイルに戻った。
ビーチバレーでおおはしゃぎして一息ついた時、颯馬はふと気付く。
「……あれ?」
カゲトラがいない。
颯馬は少し気になった。
「ちょっと飲み物取ってくる」
そう言ってビーチを離れる。
庭のプールに、カゲトラはいた。
一人で泳いでいる。
遊びじゃない。完全にトレーニングだった。
長い手足で水を切り、競泳選手みたいなフォームで何往復もしている。
静かな水音だけが響いていた。
(……すげえ)
颯馬は少し見入ってしまう。
やがてカゲトラがプールサイドへ上がった。
濡れた黒髪をかき上げ、肩で息をしている。
「海行かねえの?」
颯馬が声をかけると、カゲトラはちらりとだけ視線を寄越した。
「騒がしいの嫌い」
「そっか」
短い沈黙。風だけが吹く。
やがて、カゲトラがぽつりと言った。
「……おまえは」
「ん?」
「なんでオーディション受けた」
颯馬は少し考えた。
そして、プールサイドへ腰を下ろす。
「
カゲトラの眉がわずかに動く。
「俺、小5の時に両親が事故で死んじゃってさ。じいちゃんとばあちゃんに引き取られたんだけど。それ以来、何しても楽しいと思えなくなって」
テレビを見ても漫画を読んでも、友達と遊んでも、笑えなくなった。
何もかもがつまらなくて、意味がないことのように思えた。
趣味もない。
夢もない。
心の中が空っぽになったみたいだった。
「生きてる意味って何なんだろって、ずっと思ってた」
カゲトラは黙って聞いている。
「そんな時、テレビで見たんだよ。“
“FLAME”は、実力派ダンス&ボーカルグループで、リリースする楽曲はすべてランキング1位。社会現象とも言える人気を博した。
当時二十六歳だった緋崎
ブレイキンを取り入れたハードなダンスを繰り広げながらも、センターでメインパートを息切れ一つせずに歌う。よく伸びるハイトーンボイス。そして言葉をまるで楽器のように操るラップ。
画面越しでも圧倒されるぐらい、目立っていた。それを見て、胸がワクワクして、興奮した。
「……あんなすげえ人、初めて見た」
歌。
ダンス。
色気。
目力。
全部に衝撃を受けた。
「俺もあんな風になりたいって思った」
それが、初めて見つけた夢だった。
「それからブレイキン習い始めた。最初は全然下手だったけど。少しでもあの人に近付きたくて、がむしゃらに練習を続けた」
カゲトラはしばらく無言だった。
やがて、小さく呟く。
「……重いな」
颯馬は吹き出した。
「うるせえ」
するとカゲトラの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
「でも、嫌いじゃない」
その瞬間。
「颯馬ーーー!!」
遠くから彼方の叫び声。
「スイカ割りやるぞーーー!!」
一気に現実へ引き戻される。
颯馬は笑った。
「お前も来いよ」
カゲトラはタオルで髪を拭きながら視線を逸らす。
「……考えとく」
絶対来ないだろ、と思いながら、颯馬は小さく笑った。
数か月後。 ステージ袖まで届く歓声を聞きながら、颯馬は衣装の裾を引っ張った。 何度確認しても、特に乱れているところはない。それでも手持ち無沙汰になると、つい触ってしまう。「颯馬、さっきからそれ何回目?」 彼方に指摘され、颯馬はようやく手を離した。「そんな触ってた?」「めっちゃ触ってる。緊張してる?」「してないとは言わない」「俺はしてる!」 彼方は隠す気もないらしく、両手を広げてみせた。「ヤバい、めちゃくちゃ楽しみ! 早く出たい!」「お前のそれ、緊張ちゃうやろ」 瞬多が笑いながら突っ込む。「遠足前の小学生やん」「昨日ちゃんと寝たし」「そういうとこまで小学生やな」「うるさいな!」 二人のやり取りを聞きながら、凱が大きな声で笑う。 少し離れたところでは、龍也がイヤーモニターをつけたり外したりしていた。「これ、ちゃんと聞こえてるよな?」「さっき確認しただろ」 カゲトラが言う。「でも急に壊れるかもしれねえじゃん」「本番前に何回確認しても、壊れる時は壊れる」「そういうこと言うなよ!」 龍也が振り返る。「余計緊張すんだろ!」「自分から聞いたんだろ」「お前さあ!」「二人とも、本番前に喧嘩するなって」 颯馬が止めると、龍也が「こいつが変なこと言うからだろ」と訴えてくる。 この光景にも、もうすっかり慣れてしまった。 あの離島で初めて七人のユニットに分けられた頃は、こんなふうになるとは思っていなかった。 七人は今日、オーディション候補生ではなく、一つのボーイズグループとしてステージに立つ。 Top of the rainbow。 それが、自分たちで考えたグループ名だった。「そういや
その頃、最終審査ライブの生配信では、本番が終わったあともコメントが途切れることなく流れ続けていた。@miu_39水琴くん途中から足庇ってなかった??? 大丈夫???@kyoto_luvやっぱりみーくん怪我してたよね? 結果発表のあとずっと座ってたし心配すぎる@7iro_star水琴、最初の曲は普通だったのに二曲目ちょっと動きおかしかった気がする。最後まで踊り切ったのすごいけど無理してたよね?@pinkmoon_05みーくん合格めちゃくちゃ嬉しいけどまず病院行って😭@somakoto_forever颯馬と水琴ずっと応援してきて本当によかった。二人とも名前呼ばれた瞬間普通に泣いたし、最後ずっと手を繋いでて尊かった❤@blue_sky728最初はBL営業おもしろwくらいで見始めたのに気づいたら二人とも本気で応援してた。30日間見てきてよかった@SOMA_1pick颯馬に投票しました。仲間思いで、最初から最後まで周りを見て動けるところが好きだった。デビューおめでとう@mikoto_1pick私は水琴に入れた! 歌もダンスも表情も全部好きだけど、この30日でどんどん仲間を大事にするようになったのが一番の理由@ryuya_beat龍也に投票した!! ラップとボイパで一発で好きになった。名前呼ばれた瞬間叫んだ@kanata_runrun彼方くんに一票! パフォーマンス中の楽しそうな顔が好きすぎる。見てるこっちまで楽しくなる@shunta_oshi瞬多に投票しました。ラップももちろんだけど、合宿中ずっと空気を明るくしてくれて
巨大スクリーンに七人の顔と名前が並んでも、颯馬にはまだ現実味がなかった。 水琴の手を握り、龍也たちに背中を叩かれ、何万人もの観客から名前を呼ばれている。 それでも、自分が明日から「デビューする側の人間」になるという事実だけが、身体から少し離れた場所にあるようだった。 やがて颯馬は、少し離れた場所に立つ五人に目を向けた。 日和は拍手をしていた。 いつもの穏やかな笑顔を保とうとしているのに、目からは次々と涙が落ちている。 隣にいたミンソクが肩を抱くと、とうとう顔を伏せた。 響は唇を強く噛んでいた。泣くまいとしているのか、何度も瞬きをしている。 まひろは最初から隠そうともせずに泣いていた。「悔しい……マジで悔しい……」 それでも両手を叩き続けている。「でも、おめでとう……ほんとに……」 イッセイはしばらく俯いていたが、やがて顔を上げると水琴を見た。 目が合う。 イッセイは何も言わず、笑って拍手を送った。 水琴の目から、また涙が溢れた。 颯馬は自分が合格した喜びだけに浸っていられなくなった。 この一か月、十四人で同じ場所を目指してきた。 そのうち二人は、自分たちのしたことによって最後の舞台から姿を消した。 そして今ここにいる十二人のうち、七人が選ばれ、五人は選ばれなかった。 最初から分かっていたことなのに、名前が読み上げられてしまえば、その境界はあまりにもはっきりしていた。 結果を読み上げた男性が一礼してステージを去ると、炎が十二人の前に立った。『まず、十二人ともお疲れさま』 炎は候補生たちを見渡した。『結果は出ました。選んだのはここにいるお客さんたちと視聴者のみんなです。でも、俺からも最後に少しだけ話をさせてください』 会場が静まって
結果発表の時刻が近づくと、候補生たちは再びステージ袖に集められた。 そこに、そらと葉月の姿はない。 水琴は救護スタッフから足をつかないよう念を押され、ステージ袖までスタッフに車椅子で運ばれてきていた。結果発表中も無理に立たせないことが決まり、舞台上には水琴用の椅子が用意されている。「ほんまにこれで出るん?」 水琴が車椅子を見下ろして苦笑する。「歩くよりいいだろ」「ステージ出る直前までこれって、なんか恥ずかしいわ」「血まみれの靴で二曲踊った人が今さら何言ってんだよ」「それとこれとは別やん」 いつもの調子で返してくる声に、颯馬は少しだけ安心した。 けれど水琴の手は、膝の上で強く組まれていた。 颯馬自身も同じだった。 結果が出る。 三十日間の合宿も、東京に戻ってからの練習も、今日のステージも、すべてに答えが出る。「緊張するなあ」 彼方が両手を擦り合わせる。「ライブより緊張する」「分かる。踊っとる時は自分でなんとかできるけど、もうなんもできへんからな」 瞬多が客席側を見た。 龍也は落ち着きなく何度もその場で足を動かしている。「まだ?」「じっとしろよ」 凱に言われても止まらない。「無理。こうしてないと死ぬ」「死なねえよ」「分かんねえだろ」「結果待ちで死んだ奴聞いたことないぞ」 彼方が吹き出した。 その少し離れたところで、カゲトラだけは壁にもたれて黙っていたが、組んだ腕の指先が一定の間隔で動いている。 颯馬はそれを見て、カゲトラも緊張するのだと初めて知った。「炎さん、ステージ入ります!」 スタッフの声が飛んだ。 十二人の表情が変わる。 モニターには、再びステージへ向かう炎の後ろ姿が映っていた。
炎のライブ後半、最後の曲が終わった。 ステージを覆っていた照明が落ち、炎が深く頭を下げると、ドームを満たす拍手と歓声が舞台裏まで届いた。 このあとには審査結果の発表があり、その後、炎はアンコールでもう一度ステージに戻る予定になっている。そのため、いったん短い休憩が設けられていた。 救護室で再度処置を受けた水琴は、足を床につけないよう椅子に座っていた。「ほんまにもう血ぃ止まったって」「だからって歩くなよ」「颯馬くん、今日それ何回言うん?」「みーが何回も無茶するからだろ」 そのやり取りを聞いていた彼方が笑う。「颯馬、今日は水琴のお母さんみたいになってるよ」「恋人通り越しとるやん」 瞬多まで加わり、水琴が吹き出した。 いつの間にか、二人の関係がBL営業ではなく実際に恋人だということは、メンバー内では公認になっていた。 流出映像の件はノーコメントで貫いているが、颯馬も水琴も、恋人同士のように言われたところでもう否定はしない。「俺の方が風呂掃除うまくできるけどな」「そこ張り合うところ?」 龍也が呆れたところで、ステージ側から歓声がひときわ大きく聞こえた。 炎が舞台を降りてきたらしい。 颯馬が廊下の先を見ると、汗を拭きながら歩いてきた炎にスタッフが駆け寄っていた。 何かを耳元で伝えている。 炎が足を止めた。 別のスタッフがタブレットを差し出す。 画面を見た炎の眉が寄った。 さっきまで何万人もの観客を沸かせていた人間と同じとは思えないほど、その表情が変わる。「……何かあったのかな」 彼方も気づいたらしい。 炎はタブレットを操作し、映像らしきものを何度か確認していた。 やがて顔を上げる。「そら呼んできて」 近くにいたスタッフへ告げた。 颯馬は水琴と顔を見合わせた。「そら?」
二曲目の最後の音が鳴り止んだ。 七人で決めた最後のポーズを崩さないまま、颯馬は荒い呼吸を整えようとした。照明の熱で額から汗が流れ、衣装の背中は肌に張りついている。 一瞬遅れて、客席から歓声と拍手が押し寄せた。 何万人もの声が重なり、足元のステージまで震えているようだった。 やり切った。 島で何度も繰り返し、東京に戻ってからも細部を直し続けた二曲を、最後まで七人で踊り切った。 颯馬が隣を見る。 水琴も笑っていた。 いつもの、人目を引く華やかな笑顔だった。 けれど次の瞬間、その身体がわずかに傾いた。「水琴?」 颯馬が近づくより先に、水琴は体勢を戻した。 まだステージの上だ。 客席から見れば、少しよろめいた程度にしか見えなかったかもしれない。 七人で並び、観客に向かって頭を下げる。『ありがとうございました!』 声を揃えた。 再び大きな拍手が降ってくる。 水琴は最後まで笑っていた。
昼食を終えた後、メンバーたちは再びスタジオへ集められた。 鏡張りの広い部屋。冷房は効いているのに、どこか空気が張り詰めている。「ここからはユニットごとに分かれて練習してください」 スタッフがそう告げると、自然と二つのグループに分かれていった。 颯馬は、自分とは別ユニットになったそらと目が合う。 そらは少しだけ寂しそうに笑った。「颯馬くん」「ん?」「ユニット離れちゃったね」
合宿三日目の朝。 沖縄の強い陽射しが、ダイニングの大きな窓から差し込んでいた。「はい、今日は掃除当番決めるからなー!」 瞬多がホワイトボード片手に声を張る。 朝食を食べ終えたメンバーたちは、リビングに集められていた。「はあ? 掃除なんて面倒くせーことやりたくねえし」 龍也が短く刈り上げた金髪の後頭部を掻きながら、不満そうに唇を尖らせる。 それを嗜めるような声音で、瞬多が説明する。「せやけど、この合宿所には掃除してくれるスタッフはいてへんやん。寝室は各自でやればええけど、お風呂やトイレなんかの共用スペースは誰がやるか決めなあかんやろ?」 そこで一旦言葉を区切り、目線で響やミ
颯馬が戻ると、1号室のドアは、少しだけ開いていた。 元々あの有名プロデューサー炎の別荘だというだけあって、部屋は広い。二段ベッドを三台入れてもまだ余裕がある。ベッドの横には人数分の簡易クローゼットも設置されていた。 室内では、すでに三人が荷物を広げていた。 笑い声と、どこか浮ついた空気。合宿初日特有の、独特な高揚感。「ただいま」 颯馬が声をかけると、すぐに反応が返ってきた。「颯馬くん、おかえり!」 オレンジ色の髪を揺らして、そらが駆け寄ってくる。 近い。距離感がやたらと近い。 つぶらな瞳で見上げられて、颯馬は思わず視線を逸らしそうになった。「同じ部屋だね! こ
あの夜のことは、忘れられない。 高層階の窓の向こうに、東京の夜景が広がっていた。ガラスに映る光が、まるで星みたいに揺れていたのを覚えている。 背後から、低く甘い声がした。「颯馬、俺のこと好きなんだろ?」 振り向くより早く、腕を引かれた。 体が触れる距離に引き寄せられて、息がかかるほど近い。「……ねえ、俺を抱いてみない?」 その言葉が、冗談じゃないことくらい、わかっていた。 細い指が、俺の顎に触れる。逃げる理由なんて、どこにもなかった。 憧れて、焦がれて、やっと手に届いた人だったから。 ――あの夜、俺は初めて、炎さんを抱いた。 触れた体温も、息遣いも、全部、焼







